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中川周士 木工芸

職人名
中川周士
屋号
中川木工芸比良工房
技能
木工芸
在住
滋賀県大津市

1968年京都市生まれ。1992年京都精華大学美術学部立体造形卒業。卒業と同時に中川木工芸にて父・清司(重要無形文化財保持者)に師事。桶、指物、刳物、ろくろなどの技術を学ぶ。2003年滋賀県志賀町(現・大津市)に中川木工芸 比良工房をひらく。※中川木工芸は、京都の老舗桶屋「たる源」で修行を積んだ祖父・亀一が京都の白川に構えた工房で、現在は父・清司が受け継いでいる

商品一覧

鉋(かんな)だけで300種超!

おひつや酒樽、ちろりとぐいのみ、菓子鉢、湯豆腐桶、花手桶、湯桶に手杓、腰掛け台……。その端正な姿形に思わず「きれい!」と声が出てしまう白木の工芸品があります。作っているのは中川周士さん。釘などの接合道具を使わず木と木を組み合わせて作る桶物(おけもの)や指物(さしもの)、あるいは木をえぐってくぼみを作る刳物(くりもの)、そして回転する軸に木を取りつけて刃物で削る轆轤(ろくろ)。日本に古くから伝わるこれらの技法で木の器を作る職人さんです。

材料は木曽椹(きそさわら)や木曽檜(きそひのき)、高野槙(こうやまき)、吉野杉(よしのすぎ)などの和木(日本の木)。道具はおもに鉋(かんな)や鉈(なた)、そして銑(せん)や割鎌(わりがま)。両側に持ち手のついた大きくカーブした鉋や、反った柄がついている鉈など、ほかではちょっとみられないヘンテコな形の刃物もありますが、そのほとんどは昔ながらの形状をした木工専用の道具です。
「鉋だけで400刃はあるでしょうね。なかには200年以上使われてきた道具も持っていますよ」と中川さん。道具をみているだけでも博物館みたいです。

木工芸職人のもうひとつの顔は

三代目としての自覚はあったけれど、「面と向かって跡を継げといわれたこともなかったので」と、大学に進学した中川さん。専攻したのは、こともあろうに現代彫刻でした。卒業後は、月曜から金曜まで中川木工芸で木工芸品を作り、金曜日の夜中からプレハブのアトリエに泊まり込んで日曜の夜まで鉄のオブジェを作る、という生活が10年間も続いたそうです。

それにしても、現代彫刻で求められるのは独創性。人とおんなじことをやっていても始まらない世界。かたや先人の作品をなぞるようにして、寸分違わず伝承していかなければならない伝統工芸の世界。違和感はなかったのでしょうか。
「外向きのベクトルと内向きのベクトルのバランスのなかで生きていた10年。たいへんでしたけど、勉強になりました。鉄を知ることは、木を知るためにもとても役に立っています」

人とともに生きてきた木の文化

「これ、椹(さわら)」。
そういって手渡された黄色みを帯びた鉋くず。やさしい香りがします。
「こっちは、檜(ひのき)。どうですか。香りの違い、わかりますか」。
たしかに。重力感のある香りがひたひたと漂います。ほっとする香りです。
「私には日本人のからだのどっかに木への愛着が刻まれているのだ、いう確信があります。虫の声と同じですね。虫の声を聞いて癒されるのは世界でも限られた 民族だけらしいですよ。欧米人には虫の声は耳障りな雑音にしか聞こえない。木の香りや、木目の美しさや、肌触りに惹かれるのは、そこに日本の文化があるか らなんです」。

平安のころか脈々と伝えられてきた木の文化。しかし、高度成長期を迎えた日本は驚くほどの吸収力で新しい文化を採り入れてきました。プラスチックやセルロイドにおされて木工芸品の需要は激減します。生活がどんどん便利になったぶん、豊かさの尺度も変化しました。でも、ここ数年は方向転換の兆しありです。心の贅沢を楽しむ人たちが、年齢を問わず、増えてきたのです。
「ちょっと高価で私のお給料ではいっぺんに揃えることができないので」といって湯桶と手杓、腰掛台を年にひとつずつ買って、お風呂セットを揃えた若い女性もいたそうです。

修理してこそ、みえてきたもの

「木は、人が離れると朽ちてしまう。木の文化は人の生活があるところにだけ成立するのです」と、中川さん。木は呼吸をしています。その息づかいが、人にあたたかみを感じさせるのかもしれません。ただ、急激な温度変化を加えると桶やおひつは“たが”がはずれて、ばらばらになってしまいます。鉄の釘を1本も使っていないのですから、あたりまえのこと。そのかわり、もとどおりに修理もできます。ばらばらになるからこそ、何代にもわたって使い続けられている器が存在するのです。修理を重ねながら、江戸時代から使われてきた樽だってあります。中川木工芸のものを修理していると、中川さんにはいろんなことがみえてくるのです。
「まったく同じように作っているのに、誰が作ったもんかわかる。これはお爺さんのや、これは親爺のや、叔父のやってね。ほかの人にはわからへんと思いますわ。どれもぴったり寸法帳どおりですもん。けれど、私にはわかります。そこから学ぶことも多い。究極の個性や、思います」。

いま、中川さんの仕事の八割は先々代から受け継がれてきた品々。それだけでも200アイテム以上にのぼります。残りの二割は、現代アーティストとのコラボレーション作品などのオリジナル作品。「古いもんを守りながら、新しいことにも挑戦していかな、と思うんです。木の美しさ、やさしさ、強さ。木をよく知ってもらうために、ていねいにひとつずつ作っています。量産はできませんけどね」。待っている時間さえゆっくり楽しむ。これも贅沢なときの過ごし方のひとつだと思いませんか。

作品例
  • http://wazamon.shop-pro.jp/?pid=19766267
  • 杉箸箱・煤竹箸セット
  • 高野槇 ピッチャー
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