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岡本作礼 唐津焼

職人名
岡本作礼
屋号
作礼窯
技能
唐津焼
在住
佐賀県

1958年、佐賀県唐津市生まれ。1979年より唐津焼の窯元で修行をはじめ、1989年、唐津市にある作礼山の中腹に「作礼窯」を構える。2002年には東京・銀座の黒田陶苑にて個展を、また九州陶磁器文化会館にてフランス人陶芸家と日仏現代陶芸展を開催。2003年、東京都庭園美術館「現代日本の陶芸『愛用と発信』」に出品。2008には京都の野村美術館にて個展を開催。古唐津の陶片を収集して研究し、能登島ガラス工房にてパート・ド・ヴェールの技法を習得するなど、探究心あふれる作陶家である。現在、年間4回の個展を中心に毎年新作を発表し、唐津焼第三世代を担う作家として注目されている。

商品一覧

430年余、受け継がれてきた技法

「一楽、二萩、三唐津」。茶人の間で、茶碗の格付けとして古くからいわれてきた言葉です。侘び、寂びを重んじる茶の湯の世界では、素朴な唐津焼の風合いが格別に好まれてきました。

唐津焼は豊臣秀吉の朝鮮出兵の際に連れてこられた陶工たちによって伝えられたとされますが、文献によると、それよりもう少し前、1580年代には肥前の国(現在の佐賀県東部から長崎県北部)で作られていたという記録もあるようです。唐津には蹴轆轤(けりろくろ)、叩き作りなど、李氏朝鮮から伝わった技法が現在に至るまでそのまま受け継がれている窯も残っています。焼成は連房式登窯という大がかりなものが多く、1300度ほどの高温で一気に焼き締めます。「朝鮮半島のあちこちから陶工たちがやってきて、日本の方々へ移り住んでいった。そして萩焼や、薩摩焼などが生まれたわけです。ただ、唐津にはいろいろな地域からやってきた技法がそのまますべて伝わり、いまも残っています。だから唐津焼にはさまざまな技法があって、作品の系統も多岐にわたっているわけです」と、岡本作礼さん。確かに、李氏朝鮮の陶工から伝わった伝統的なスタイルを残す朝鮮唐津のほかにも絵唐津、斑唐津、三島唐津、粉引唐津、奥高麗、瀬戸唐津、刷毛目唐津、櫛目唐津、黄唐津、青唐津等々、覚えきれないほどの種類があって、どれもたいへん個性的です。

陶芸家として、いちばん大事なことは

佐賀県唐津市にある標高887メートルの作礼山。古くは山岳信仰の霊山とされたこの山の中腹に岡本さんが作礼窯を構えたのは平成元年のことでした。以来、目指してきたのは、「この山周辺の素材で、唐津ならではの特性と土着性の表れた作品をつくること」。丸い単純な皿一枚に、素材の持つ魅力をいかにダイレクトに表現するか──岡本さんがいま考えているのは、そういうことです。だから原土の選別、釉薬の原料となる長石の採取と研究、焼成に使う薪選びや薪割り、そんなことに十分に手間暇をかけます。

「陶芸家の仕事は、寿司屋の仕事と同じです」と、突然、謎かけみたいなことをおっしゃる。その心は……「どちらも下ごしらえがものをいう」。下処理とか準備、そんなことを怠るといいものはできない。目に見えない仕事を丁寧にやらないと、納得できるものは決して生まれない。陶芸、といって私たちが創造するような、轆轤を挽くとか、窯に火を入れるとかはほんの一部で、本当は表にはなかなか出ない、物語になりにくい、絵になりにくい仕事が大部分なのです。

「そしてね、そういう見えない仕事が、じつは一番大事じゃないかと思います。ぼくは、大事にしています」と、きっぱり。唐津焼の見所のひとつとされる高台(器の支脚部分)は鉋(かんな)で削り出します。一般には轆轤で成形し、乾燥させたあとに形を整えるために鉋を使うこともあるそうですが、岡本さんが鉋で削りを施すのは高台だけ。その鉋はほんの一瞬で終わってしまいます。それは、彼が古唐津をみて知っているから。桃山時代の陶工たちは鉋で削り回すような野暮なことはしなかったことを。高台をみれば、そのスピード感が伝わってくるほど、彼の高台は潔く削られているのです。

独立して窯を構えたころから、岡本さんは古唐津の陶片、骨董の掛け軸や工芸品も少しずつ収集しています。何百年という時間の壁を超えて目の前にあるいにしえの名工たちの、無言の教え。「昔の人の仕事には頭が下がります。とても丁寧で、とても考えられていて、細かいところまで機能的に作られている。それは桐箱にかける和紙に塗った柿渋にまで現れる。とてもかなわないと思いながら勉強させてもらっていますよ」。

鍛錬し、考えること、そして感じること

「焼きものができ上がるまでには、いくつものかけ算があります」と、岡本さん。土や石などの素材、形、釉薬、窯、場所、火、それに気候や天候、それらがすべて可能性のかけ算で、無限大に可能性が広がっていくのだと、岡本さんはおっしゃいます。自分でどれを選択するか、そして、あとは自然の力がどう加わるか。最後は、火にまかせるしかない仕事です。「寝ずの番をして窯炊きをして、そのあと3日間冷やす。そのときが一番わくわくします。どんな作品に仕上げてくれるのだろう!って」。しかし、じつは窯の扉を開けるその瞬間、岡本さんの頭のなかは次の創作のことでいっぱいになっているのです。薪がうず高く積まれた登窯の入り口に、珊瑚樹の木がありました。初夏に小さなかわいい花をつけ、秋になると珊瑚のような赤い実をつけます。

「紅葉がすばらしくてね。鮮やかなグラデーションを描いて紅葉して、とても派手なのにとても上品なんですよ。人間には、とうていこんな色は作り出せない。自然界にしかない美しさってあるんですよね」。笑って「僕は、この葉がとても好き」と、葉っぱを1枚手渡しながら、「轆轤の技術は鍛錬です。けれど、あとは考えること、感じることでしか磨かれていかないのだと思うのです」。そうおっしゃる岡本さんの作品。おおらかで、繊細。端正であたたかい。土の、木の、火のエネルギーがしっかりと掌に伝わってきます。大切に、長く使い込んでいきたくなる、親しみの湧く重さです。

作品例
  • 朝鮮唐津/鮑向付
  • 唐津/粉引若松文向付
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