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栗﨑和風 古代裂お雛様

職人名
栗﨑和風
屋号
工房 和風華
技能
古代裂お雛様
在住
福岡県北九州市

1946年、福岡県北九州市生まれ。1971年、日本木目込み人形協会教授となり、1992年より野村百華会人形学園教授を務める。1994年、百華会雅号『和風華』認定。日本各地に江戸時代から伝わる古代裂を衣裳に着せた雛人形が話題を呼び、国内の伝統工芸展だけでなく、海外にも出展多数。2003年『ケベックと日本の文化交流』グランプリ受賞。2007年にはアメリカ・ロサンゼルスの『JAPAN EXPO』出展。

木目込み人形のルーツは京都・上賀茂神社

「ひとがた」と書いて「にんぎょう」。先史の時代から、人は人形を作り続けてきました。祭礼や宗教行事のために、文楽や人形劇といった文化活動や娯楽のために。芸術作品として制作された人形もあれば、玩具として作られたものもあります。厄を払い、健康を願い、繁栄を願い、災い転じ、幸多かれ、と祈りを込めて作られたものもあります。

今回ご紹介する木目込み人形は、1740年ごろ、京都の上賀茂神社に使える高橋忠重という人が、祭礼の柳筥を作った余材に彫りを施して人形を作り、胴体に溝をつけ、その溝に神官の衣服の端布を押し込んで衣裳を着せたのがはじまりとされています。木目込み人形と呼ばれるようになったのは、筋掘りに布の端を押し込む作業を「木目込む(決め込む)」というからです。
栗﨑和風さんは、その木目込み人形に「古代裂」の着物を着せる雛人形作家です。
19世紀ごろに作られた上等な着物に使われている絹は良質で、染織や刺繍には現代では再現するのが極めて難しいとされるほど、繊細で高度な技が駆使されていました。その古代裂を栗﨑さんは雛人形にまとわせます。

世界に誇れる美意識や技を後世に残したい

栗﨑さんが古代裂に出会ったのは、30年ほど前のことでした。
「四国の古着屋さんで、なんともいえないピンクの着物をみつけたんです。江戸時代の小袖でした。かなり古くて、そのまま捨てられる運命だったのですけど、私はすっかりその着物に惚れ込んでしまって。持って帰って、端布ひとつ残さずにすっかりお人形に着せてあげたんです。そしたらほんとに素敵なお人形になって、欲しいといってくださる方がたくさんいてくださったのです」
栗﨑さんは日本各地で古い着物を集めるようになりました。二百年の年月を経ても黒ずみひとつ見せないほど純度の高い金銀の糸が使われ、ため息がでるほど繊細な刺繍が施され、気が遠くなるくらいに緻密な絞りで染めあげられ……。しかし、長いときを経た古代裂はもろく、すでに朽ちる寸前のものさえあります。着物のままでおいておいたら、もう、そのまま誰にも着られず、捨てられてしまう。それはあまりにも忍びない。
「だから、遺したい。ちゃんと養生して復活させて人形に着せてあげれば、後世に残すことができるのです。長い間、蔵や箪笥にしまわれていたものが、みんなに見てもらえて、大事にされて遺っていく。日本が誇れる絶頂期の着物文化を残したい。その思いだけで、ここまで一所懸命頑張ってきたんです」

着物がすべてを教えてくれました

「人間のために作られた着物をお人形に着せるわけですからね、柄ゆきを見定めるのにすごく時間をかけるわね」

木目込み人形の着ている着物の面積は小さくて、見えるのはほんの一部。インパクトのある柄やイメージに合う色を選んで、配分を考えて、お内裏様とお雛様のバランスも考えて。
「二人を並べるときは引き立て合いつつ、惹かれ合いつつ。大切なのは間(ま)なんです。日本の文化はすべて、間の取り方なんですね」
柄が決まってからも、時間はたっぷりかかります。なにせ百年、二百年と経過した布たち。やさしい風合いに仕上げるためには二倍、三倍の手間がかかるのです。その技法は栗﨑さん独自のもので、秘密だそうですが、とにかく贅沢に古代裂が使われています。だから、どの人形もとても豊かな、幸せそうな表情にみえるんですね。着物も人形も、きっと喜んでいるだろうなあと思えるくらい、ふんわり、ほっこり着せてもらっています。

「人形を作るのに必要なことは、みんな着物が教えてくれました。染織や刺繍の技法の数々や時代背景ばかりでなく、着物のまわりで生きていた人たちの思いや、その着物が背負ってきた歴史までね」
婚礼衣裳。娘を嫁がせる親の気持ちが込められた華やかな着物の下前に、ひっそりと描かれた鶴の巣ごもり。四季折々の花々で飾られた小袖に、虎視眈々と獲物をねらう鷹の絵。その着物を着せた人、着た人の思いをぜんぶ受け止めて、栗﨑さんは人形に昇華させていきます。
「雛人形は、生まれてきた女の子が健やかに育って、幸せになりますように、という願いを込めて贈られたものですが、最近、ご自分のためにお買い求めになる方も増えていますよ」
人形の文化は女性が守り、育ててきた文化。女性たちが心で遺してきた、世界に誇れる文化ですから、ちゃんと伝えていけるものを作りたい、と栗﨑さん。「和風華」のお人形を連れて帰ってくれた方々に、幸せも一緒に連れて帰っていただけるように、今日も、祈りを込めて雛人形を作りつづけています。

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