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角光男 漆工芸

職人名
角光男
屋号
角漆工
技能
漆工芸
在住
東京都荒川区

1947年福井県生まれ。漆師。1966年に上京し、義兄が経営する加藤漆器製作所に勤務。1981年に独立。寿司や蕎麦の容器、汁器、茶道具はもちろん、床がまちなども手がける漆の第一人者。試行錯誤を繰り返して生み出した、漆塗りを施した陶器のビアカップが人気に。荒川区登録無形文化財。荒川区伝統工芸保存会会員。

美しさ、そして強さ。漆の魅力を伝える匠

漆はつややかな塗料でもあり、堅牢な接着剤でもあります。漆はアルコールにも、酸にも、アルカリにも溶けません。金を溶かす玉水でさえ漆を溶かすことはできません。しかも漆には抗菌作用があり、ことに木を腐らせる腐朽菌に強いため、古くから木製の椀や酒器などのコーティング材として重宝されてきました。縄文時代にはすでに赤漆を塗った容器が使われていたという記録も残っています。

ここに、その漆の魅力を追求し続ける匠がいます。角光男さん──その作品には力強さがあり、そしてなによりも楽しさがあります。その両方が、しっかり手のひらに伝わってくる。たまらない魅力です。

材料は惜しまない。手間も惜しまない。

福井で生まれ育った角さんが、漆工芸を志したのは高校1年生のとき。冬休みに、姉の嫁ぎ先である加藤漆器製作所の手伝いをしたのがきっかけだったそうです。
「冬休みに手伝いにいったときは子守のためだったんだけど、あのときかいだ漆の乾く匂いは忘れられない。今でもね」

高校卒業と同時上京し、住み込みで弟子入り。ぜったいに独立すると決めて、必死の修行。33歳で独立。この道40年をこえました。それでも
「修行は一生。私は不器用だから失敗と試行錯誤の繰り返しです。ただ、それがよかった。器用な人間だったら、飽きちゃってるかもしれない」
ご存じの方も多いと思います。漆器づくりは手間暇がかかります。塗っては乾かし、乾かしては研ぎ、そしてまた塗って乾かし、また研いで塗って……。角さんはとくに下地、中塗り、上塗りを、薄く何回も塗り重ねる手法をとっているので、よけいに手間がかかります。

「生活の道具は使いやすいこと、丈夫なことが第一。下地をしっかり塗っておくと丈夫さが違う。手間暇は惜しまない。材料はケチらない。それが私の気持ちの込め方です」
漆器は電子レンジでは使えませんが、あとはふつうに使って大丈夫。台所洗剤で洗ってもかまいません。角さんの器なら、もし欠けたり、割れたりしても修理してもらえます(一度目だけ無料)。ま、もちろん粉々になっちゃ、無理ですけど。

漆の保つ可能性にかける思い

角さんの漆と陶器との出会い。そこから生まれたビアカップがあります。
「漆は接着剤なんだから、いろんなものにくっつくはずだ、と思っていろいろ試したんです。くっつくものもあり、くっつかないものもあり。あるとき、陶器のマグに塗ったら面白い風合いに仕上がって。ビールを注ぐと細かいクリーミーな泡が立って、とてもおいしいような気がしてね。自分用にしていたのですが、客人が欲しいと言って、いくつかプレゼントしたりしていたら、注文がくるようになったんですよ」

陶器は吸水性があるので、水を入れるためにはかなり高温で焼成しなければならず、そのために釉薬を塗ることが多いのですが、この釉薬がビールの泡を抑えてしまうのではないかといわれています。漆を塗れば割れにくくなり、汚れや細菌がつきにくくなり、お手入れも簡単になって、しかもビールがうまい! いやいや、ビールだけじゃない。水もまろやかになる! と好評。このビアマグ、今や角さんの人気シリーズです。

ちょっと違うものを作る楽しさ、持つ喜び

「江戸漆器の職人は、すべての工程をひとりでやる。せっかくひとりでやるのだから、考え続ける楽しさを大切にして、おもしろいものをつくりたい」
と、角さん、四六時中漆のことを考えています。公園の落ち葉から台所スポンジ、使い古しのストッキングまで小道具にしたり。木の実に漆を塗ってみたり、こし紙にも塗ってみたり。漆を相手に、ここまで自由奔放に、破天荒なまでに表現力を発揮できた職人が、これまでどれだけいたことでしょう。

だから角さんの器は、ひとつひとつ違っているのです。同じビアカップでも、少しずつどこかが違います。形もいくつかありますが、形が同じでも模様が違います。形も模様も同じでも、色が違います。
でも、ひとつひとつ違うから、愛着が湧く。使っていると、どんどん大事なものになっていくのです。

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